リンツから約5キロ、サンクト・フローリアン修道院と教会は、「栄光のオーストリア」と呼ばれるドナウバロックの最高傑作のひとつです。 304年ドナウ川に沈められ殉教した聖フロリアンはこの地に埋葬され、ここに修道院が建てられました。バロックの建築は1688年カルロ・カルローネの設計で始まり、これをヤーコブ・プランタウアーが引き継いで1751年に完成しました。この修道院はオーストリア独特のカイザークロスターのひとつです。カイザークロスターとはハプスブルク皇帝の旅の宿、あるいは臨時の居城となるべき施設を備えた大修道院のことで、ドナウ流域ではサンクト・フローリアン、メルク、ゲットヴァイク、クロスターノイブルクの四つがそれにあたります。
修道院正面階段ホールの外観は印象的で、その巧みな意匠には躍動するバロックの息吹が感じられます。プランタウアーが設計しアルトモンテ一家がフレス コ画を手がけた大広間は、皇帝の食堂にあてられていました。トルコ軍の脅威から解放されたバロック時代。トルコ軍との戦いで総司令官を務めたオイゲン公の名にちなむ「オイゲン公の部屋」には1台のベッドがあり、「寝ながらもトルコ軍を足蹴にできる」といわれ、ベッドの足元にはハンガリー人と縛られたトルコ兵、枕元にはドイツ傭兵、そして頭上には太鼓を持つ天使が描かれています。
巨大なパイプオルガンは「ブルックナー・オルガン」(1770〜1744年製作)として知られています。作曲家アントン・ブルックナーが1858年から10年間、ここでオルガン奏者を務めました。このオルガンを深く愛した作曲家は今、オルガンのすぐ下にある納骨堂に眠っています。また、修道院のアルブレヒト・ アルトドルファーの祭壇も見事です。